不動産屋は信用できない その1

「あの土地はまだ売れていませんか?」

60台半ば位の方でしょうか、その中年ご夫婦が来店されたのは20時
少し前。 そろそろお店を閉めようかなと思っていたときでした。

「妻の身内が、あの土地の近くに住んでいるんだ。わたしたちもいい歳だし、
この先なにかあったときのことを考えて、身内の近くに住み替えようか・・・
そう思っていた矢先に、あの土地が売りに出ていることを知ったのだよ」

南向きで間口も広く住宅用地としては非常に好条件な土地の売却依頼を頂い
たのは、二か月ほど前のこと。

現地に売地の看板を立てたり新聞やチラシ広告を繰り返すも、面積が100坪
を超えていることもあってか、なかなか商談までには至っていない状況でした。

そろそろ、価格の見直しを売主さんに提案する時期かなと思っていたところで
したから、待てば海路の日和ありとはよく言ったものです。

「妻も気に入っているんだ。他の人の話しが入っていないなら、ぜひ買いたい
と思っている」

私からは物件資料をお渡ししていませんでしたが、近所の身内の方から当社の
チラシ広告を渡されており、すでに現地も確認しておられるとのことです。

また、価格については売主の条件そのままで良いということですので、相当に
この物件を気に入っていただいたようです。

「ところで、支払いの件なんだがね。わたしはいままでに不動産を何度か購入
しているのだが、すべて借入なしの現金払いでやってきた。今回もその予定だ」

こんな不景気な時代でも、持っている人は持っているのですね。
ありがたいお話です。

しかし・・・・・
契約の話しになった途端、雲行きが怪しくなりました。

「それで、契約については手付金なしの一括決済でお願いしたい」

不動産の売買は、通常、契約締結時に契約の証として売買金額の一割程度
を手付金として支払います。

その後、売主なら引渡しができる状態、買主は代金の支払い準備が整った
時点で残金を払う方法が一般的な契約方法です。
(契約から引渡しまでの期間は通常一・二か月ほど)

引渡しができる状態とは、売家なら引越しが完了して空き家になっている
こと、売地なら隣地との境界明示(確定測量)が完了していることをいい
ます。

しかし、ときには手付金の支払いが行われない売買契約もあります。

売主の信用に問題がある場合が代表的なケースで、売買契約は結ぶものの
手付金の支払いは行わず、引渡時に売買代金を一括で支払うという方法や
売買契約締結と同時に全額代金を支払い、同時に物件の引渡しをするとい
う方法で、このような売買形式゜を一括決済といいます。

「なぜ、一括決済を望まれるのですか?」

「なぜ? 君はおかしなことを聞くなぁ。だってそうだろう、私は売主の
ことをなにも知らないのだよ。手付金を払ってだよ、もし売主が持ち逃げ
したらどうなるんだ! 君は責任を取ってくれるのかい?」

「そんなことする人じゃありません」

「それはわからん。だいたい君のことだって信用しているわけじゃないの
だから」

「・・・・・・・・・・」

どうやら、じっくりお話しをする必要があります。

 

 

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