背筋がひやっ その3

前回は、ご主人さんとわたしの二人で、家の中の雰囲気が尋常でない・・・
というところまででした。

奥さんから「なにを馬鹿なこと言っているの!」とカツを入れられ
ご主人さんとわたし顔を見合わせ苦笑い。

その後、一通り室内を見ていただきましたが、奥さんだけはこの家を
気に入った様子です。

「でもなぁ、やっぱりなにか感じるんだよなぁ・・・」と、ご主人。

結局、もう少し夫婦で話し合ってから返事を・・・ということになり、その日は
終わりました。

しかし、お客様が帰られた後、ひとり、階段に座って茶碗もお皿もそのままの
食卓テーブルを眺めていると、再びご主人さんの言葉が頭をよぎります。

「やっばり、なにかあるのかな・・・」

それから数日後、奥さんからお電話です。

「主人はまだぐずぐず言っているけれど、いままで見てきたなかでは今回の
物件が一番だったわ。決めようと思うの」

「ご主人さんはどう言っていました?」

「私が説得するから大丈夫。2・3日したらまた連絡するから頼むわね」

まだ、夫婦の意見はまとまっていないようです。

この間を利用して、近所の方に聞き合わせをすることにしました。
ひょっとしたら、ご近所の方がなにか事情を知っているかもしれません。

「こんにちは。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが?」

「どちらさんですか?」

「お宅様のすぐ隣りの家の売却を頼まれた不動産会社のものですが」

「不動産屋さんがなんの用なの?」

ご年配の品のよさそうな奥様、突然の訪問者をあきらかに警戒しています。

「お隣の家のことなんですが、いままでなにか変ったことありませんでしたか?」

「変わったこと? 知りませんよ。私はなにも知りませんから」

たった一言、イヤ、二言言うな否や、バタンと戸を閉められてしまいました。

取り付く島もありません。

あの様子はおかしい・・・やはりなにかあるようです。

今度は、少し離れたところで聞いてみることにしました。

運よく、近所の奥様らしき人が3人、道端で井戸端会議をしています。

「こんにちは。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」

「不動産屋さん? なに?あのお家、もう売れたの? よく売れたわねぇ」

「どういう意味ですか?」

「知らなかったの? じつはね・・・」

先ほどの方とは打って変わって、今回のご婦人方とても協力的です。

奥さん   「あの家はね、男の一人住まいだったんだよねぇ。旦那さん、お酒が
好きな 方でね。家の外なんて空の酒瓶がゴロゴロしていたわ。」

私      「わたしもお酒は好きですが・・・」

奥さん     「それがね、飲む量が半端じゃないらしいの。旦那さん、建築関係の
職人さんだったものだから、雨の日は朝から酔っ払っていたみたいよ」

私       「わたしも、飲めば酔っ払いますが」

奥さん  「あら、あなたもアル中なの? ははは・・・冗談よ。結局、酒が原因で
奥さんに愛想つかれちゃってさ。奥さん、子供を連れて出ていっちゃ ったのよ」

私   「お気の毒に・・・」

奥さん 「どっちが?」

私   「・・・・・・・」

奥さん 「それでね、旦那さん一人っきりになっても相変わらずで、ある日、
酔っ払って階段から転げ落ちたのよ」

私       「落ちてどうなったのですか?」

奥さん  「打ち所が悪かったのか、そのまま逝っちゃったみたいよ。でも一人
住まいだものだから、だれも気付かなかったわけ。そうこうしている
うちに、だんだんと臭いが外に漏れてきてね。そこで初めて近所の人
が警察に通報したのよ。」

奥さんの話しが事実なら、私は、転げ落ちて亡くなった、あの階段で座っていた
ことになります。

階段だけに怪談・・・
馬鹿なことを言っているときでありません。

不動産売買では、買主がそのような事実を知っていたなら購入を見合わせた・・・・
と思われることは売主に告知義務があります。

その反面、仲介業者は取引のなかで知り得た事実について守秘義務も課されて
います。

どこまで話してどこまで秘密にするのか、その線引きはむずかしいところですが、
今回の事情は、どう考えても告知事項に当たります。

翌日、このことを先日のお客様に報告しました。

「どうしてもお話しなければならないがあります」

「なんなの? ひょっとしたらあのお家が売れちゃったという話?」

「いや、そういうことではなくて、じつは・・・」

「そんなことがあったの。近所に住んでいるけれどまったく知らなかったわ。
うちの旦那の言うことが当たっていたわけね。でも、こういうことってお祓い
すれば済む問題じゃないの?」

答えに窮する質問です。

建物を取り壊して新たに家を建てるならまだしも、建物をそのまま利用すると
なれば、心理的影響は小さくありません。

結局、ご主人の反対で、今回の物件は見送られることになりましたが、それに
しても、今回の売主さん。どういうつもりで隠していたのでしょうか。
こんなことは住めばやがてわかってしまうことです。

幸いにも、売買契約前に発覚できたことでトラブルにならずに済みましたが、
売主さんに告知義務の重大さを説明していなかった、仲介業者の姿勢にも問題
が残る事件でした。

 

 

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